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IX.タマキ編1:哀しみの未亡人。

うちの近くのスーパー「デメ金」。
目が飛び出るくらい安い!がキャッチフレーズの、さえない店。
そんなスーパーの、レジ係の女の人。

いつも素顔、つまりノーメイクで、ポニーテール。というよりも、髪の毛を無造作に束ねただけ。パッと見、グレーな印象しかなくって、彼女の頭上の天井の照明も、そこだけ心なしか暗いような。スーパーの地味な制服を彼女が着ると、喪服に見える。

ぼくがいつも彼女のレジを選ぶのは、ワケがある。混んでる時でも、行列がないのだ。
お客さんのおばさんどうしが話してた。

「不幸そうで、あのレジの人、イヤ!」
「そうそう、お魚の鮮度まで落ちそうだし」
「きっと、サゲサゲよ」
「不幸って、うつるって言うしね」
そんなもん、うつるわけないじゃん!でも、だから行列なし。

でもなんか気になるんだなあ、だって、あの人、そばで見たら、実はすごいきれいだよ、もったいない。
ぼくには想像もできないような事情があるんだろうなあ、とはうっすら思っていたが、あんな信じられないドラマに引きずり込まれるとは、そのときは知るはずもなかった。

ある日彼女を見かけた。@駅前のカフェ、日曜の午後3時。
清楚な服。薄いけど、きちんとほどこされたお化粧。ゆるいウェーブのかかった長い髪。
どこから見ても、美人若奥様。読者モデル合格。
それにしても読者モデルって、、、はぁはぁ。

(ほらね、きれいな人でしょ?!)
ぼくは自分の眼がたしかなことを、思わず自慢した。→だれに?
遠くから眺めていると、なんか目があっている感じが。微笑みかけられている感じが。
そばに来てって、言われてる感じが。もうびしょびしょなの、って感じが。(ないない)

「ヒトミくんでしょ?」
「はい、そうですけど」
どうしてわかるんだ?

「よく忘れ物とか、落とし物とか、よくするでしょ?」
そうなんだよな。

「うちのスーパーで、よくヒトミくんの名前を目にするわ。先週は、定期券。先々週は、名前が刺繍してあるマフラー。その前が、名前の縫い取りのあるトランクス。落とし物ぜんぶに、名前が書いてあるんだもの」
、、、はずかし。

「うちのスーパーの店員で、ヒトミくんのこと知らない人いないわよ」
もう行けない。。。
「あだ名は、落とし物王子」
ぜったい行けない。。。

「ヒトミくんは、一人暮らし。彼女なし。あまり外食もしないが、自炊もしない。子供のころから大切に育てられた。たぶんおかあさん。シャワー派じゃなくて、湯ぶね派。飼ってはいないけど、ネコ好き。って推理したんだけど、違う?」
うひゃー、なんでわかるんだ?

「だってデメ金に寄って、夕食買って帰るでしょ。いつもひとりで、一人分。もし彼女がいたら、たまには一緒に買い物に来るはず。おかあさん子だっていうのは、買ってるモノ見ればわかる。サトイモの煮っころがし。カレイの煮付け。ほうれん草のおひたし。そんなのが好物だなんて若い子、少ないし。それと、ヤクルト。子供のころからの習慣でしょ?」
大正解です。すごいです。

「湯ぶね派を見分けるのはカンタン。だって入浴剤買ってるし。ネコは、ヒトミくん、たまにネコ缶買うでしょ?ほら近所の神社に、ノラの一家いるじゃない?わたしもたまに、エサあげに行くんだ」
お見事!

「主人が探偵だったの。過去形、、、だけどね・・・去年事件に巻き込まれて・・・」
悲しい顔。いきなり地味度大幅アップ。っていうか、いつもどおり。

「わたしが病室に駆け込んだとき、彼、最後のちからでわたしの手を握りしめ、『死ぬのは怖くないが、オマエにもう会えないのが、死ぬほどイヤだ』って」
(涙)

「死にそうな人が、死ぬほどイヤだ、なんて(ぷっ)」
泣きながら吹き出さないでください。
余計に悲しくなっちゃうじゃないですか。

「あの日わたしは、終わったんだと思う。自分で、終わりにしたんだと思う」
(涙)

「ほんとうに好きだった・・・あの人のこと・・・死ぬほど好きだった」
(涙)

「あの人が死んで、死ぬほど好きだったわたしが、こうして生きてるなんてね・・・」
いつまでも泣いてちゃダメだ、話題を変えないと。

「今日はなにかあったんですか?おめかしして」
「高校の同窓会だったの」
だから、いつもと違ったんだ。リフレッシュできたのかな。
「最近は外見なんて、ぜんぜん気にしてなかったけど、久しぶりに美容室へも行ってみたの」
「その髪型、とてもよくお似合いです」
「ありがとう。長い間ほったらかしにしてたんで、うぶ毛がヒゲみたいになってますよ、って言われちゃった。耳毛も伸びてますよって、2センチ」
うぶ毛が、ひげ、、、耳毛2センチ。。。

「アソコの毛も、もう、ぼうぼう。」
そんなこと聞いてませんって。なんですか、いきなり。

「河川敷のススキ」
だから、聞いてませんって。

「閉園したテーマパークの芝生」
たとえ直さなくても、いいですって。

「キレイにすると、わたしもまだいけるかなあ、って思っちゃった。」
そうですよー。まだまだいけますよー。それにしても耳毛2センチ。。。

「じゃあ今日は、エンジョイできたってわけですね」
って聞いてみたら、また暗い顔。

「主人が、高校の同級生だったの。今日も、その話題ばっかり」
ダメだこりゃ。

「とにかく!」このままじゃ帰せない。
「お茶しましょうよ、もうすこしお話したいから」

名前を教えてもらった。タマキさん。29歳。ご近所のマンション住まい。
結婚前は商社勤めで、趣味はお料理。そして、、、未亡人。

なんか話さなきゃ。すこしの間でも、ご主人のこと、忘れさせてあげなきゃ。思いつめると、タマキさん、病気になっちゃうよ。さっきから、ため息ばかりついてるし。

でも、共通の話題と言ったって、うーんと、スーパーで有名な万引きおばあさん、なんでもかんでも万引きする人で、おすもうさんに見えるくらい、服の中に野菜やらお肉やら魚やらトイレットペーパーやら詰め込んで、もちろん発見されて、逃げるときにバッグ落っことして、中を開けたら100万円くらい入ってたって伝説の人。
「でしたよね?」
「そうね」
第一話終了。

うーんと、鯛の頭を切って売るのは、残酷だ、動物愛護に反する、って店にクレームつけたイギリス人。
「っていましたよね」
「いたわね」
第二話終了。

うーんと、「年金問題って、困りますよね」
「困るわね」
もう、まったく会話がはずまない、、、どうしよう。

「セックス好きですか?」
ありゃ、ぼくなに聞いてんだ?
でも、タマキさん目を輝かせて、
「好きよ、正確には、好きだった、かしらね」

清楚な外見でそんなこと言われると、、、素敵ですね、はい、タッてます。
ついでだ、聞いちゃえ。
「じゃ、最近はどうしてるんですか?」
「ぜーんぜんしてない、相手もいないし、する気にもならない、濡れもしない」
もったいない。

つづく

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